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室津の歴史と、その古い街並みを楽しむ

前回の記事で室津は古来より天然の良港として有名であったことを書いた。
室津は三方を山で囲まれているので強風を避けることができ、風待ち・潮待ちのために絶好の港であるということで、古くから宿場として繁栄したのだが、風光も明媚であることから万葉時代から歌人が作品を残している。

たとえば万葉集に山部赤人の歌がある。

「玉藻刈る辛荷の島に島廻する
 鵜にしもあれや家思はざらむ」 万葉集(巻6)


辛荷の島

「辛荷の島」とは、たつの市の地ノ唐荷島、中ノ唐荷島、沖ノ唐荷島のことで、室津の藻振鼻(もぶりのはな)にこの歌碑が建てられている。上の画像は藻振鼻の駐車場から「辛荷の島」を撮ったものである。

また万葉集には「詠み人知らず」でこんな歌も残されている。

「室の浦の湍門の崎なる鳴島の
 磯越す波に濡れにけるかも」  万葉集(巻12)


和歌ではないが、与謝野蕪村にも室津を詠んだ句がある。

 「梅咲いて帯び買ふ室の遊女かな」
 「朝霜や室の揚屋の納豆汁」


前回の記事で、法然上人が遊女・友君に説法した話を書いたが、室津には古くから遊女がいたようだ。このことは、室津が古くから宿場として栄えていたことを意味している。

井原西鶴
【井原西鶴】

また井原西鶴は『好色一代男』で、室津を遊女発祥の地であると書いている

本朝遊女のはじまりは、江州の朝妻、播州の室津より事起こりて、今国々になりぬ。あさつまにはいつのころにか絶えて、賎の屋の淋しく、嶋布を織る、男は大網を引きて、夜日を送りぬ。室は西国第一の湊(みなと)、遊女も昔にまさりて、風義もさのみ大坂にかわらせずという。」
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1181373/39

瀬戸内海と室津港の地図

なぜ室津という狭い地域が「西国一の湊」となり宿場として栄えたかは、地図をみれば直感的にわかる。
Google Earthで確認すると、瀬戸内海に面する本州は室津あたりから西はリアス式海岸が多くて接岸に不向きな場所が多く、東は砂浜の海岸が大阪湾まで続いている。

『一路一会』というブログの室津港の解説がわかりやすいので引用させていただく。

「室津は古くから天然の良港として知られ風待ち、潮待ちの船で賑わいました。
大阪湾から姫路近くまで、播磨灘に面した海岸線は延々と砂浜が続き、室津までは船泊に適した入江がありませんでした。 さらに造船技術の進歩による船舶の大型化が別の問題を引き起こし、室津は空前の繁栄を手にします。

江戸時代になると山陽道とならび瀬戸内海航路も西国大名の参勤交代で使われるようになります。しかし播磨灘は遠浅でかつ荒れるために、大名が乗る大型の御座船が座礁、難破する事故が相次ぎました。さらに終着地である大阪湾も遠浅のため、大型船は湾の奥まで入れず、湾の外から小舟に乗り換えて上陸しなくてはなりませんでした。そこで参勤交代の大名は播磨灘手前の室津湊で上陸しそこから陸路で大阪へ向かう道筋を選びます。参勤交代の家臣は1000人を越え、80艘あまりの船団の規模からなります。それがこの港町へ押し寄せてくるのですから室津には本陣が6軒もあり、それでも足りない場合は回漕問屋と海産物問屋の屋敷が充てられたといいます。」
http://www.ichiro-ichie.com/06sanyo/hyogo/murotsu/murotsu01.html

安藤広重画 播刕室津
【安藤広重画 播刕室津】

かくして室津は日本最大級の宿場となり、この狭い地域に6軒の本陣*(肥後屋・肥前屋・紀国屋・筑前屋・薩摩屋・一津屋)があったという。本陣は普通の宿場では「一宿一軒」とされ、これだけ多くの本陣があった宿場は、全国的にも珍しいのだそうだ。
*本陣:大名や旗本、幕府役人、勅使、宮、門跡などが使用した宿舎で、一般の者を泊めることは許されていなかった。

しかしながら明治になって参勤交代のような制度がなくなり、鉄道や道路網が完成して室津は急速に衰退していったという。昭和40年代にはこれらの本陣の建物は姿を消して、今は模型が残されているだけというのは残念なことである。

室津観光マップ

今回の室津の散策に際して、観光マップくらいは現地に行けば簡単に手に入ると思ってGoogleの地図を用意しただけだったのだが、室津には観光協会のような施設がみあたらず室津の観光地図マップを手に入れる環境にない。途中で訪問した室津民族館に簡単なマップがあったが、室津を散策するにはもう少し大きくて、見どころや駐車場などがわかりやすく記された地図があった方が良い。
自宅に戻ってからネットで探すと非常に良い散策マップを見つけたので、読者のみなさんが室津を訪ねる際には、『西はりま遊記』の地図を印刷して持参されることをお勧めしたい。
http://www.nishiharima.jp/contents/townmap/

室津の町は道が細くて中心部には観光用の駐車場がほとんどなく、上の散策マップを見ればわかるとおり藻振鼻か大坂城石の駐車場に車を止めて徒歩で散策するしかないだろう。

いざ、室津の町を歩きはじめると、全国で最大級の宿場であった面影は、あまり残されてはいないことがわかる。
昔は6軒も存在した本陣の建物は40年以上前には消滅してしまっているのだが、脇本陣として利用された建物がわずかに2軒だけ残されているだけだ。

室津民族館

最初に訪問したのが室津民族館(たつの市御津町室津306)。この建物は、室津最盛期の数少ない遺構の一つであり、昭和62年(1987)には「兵庫県区住宅百選」に選ばれ、昭和63年(1988)には兵庫県の文化財に指定されている。

室津民族間内部

パンフレットによると、
「この建物は屋号を『魚屋』といいい、江戸時代に苗字帯刀(豊野家)を許され、姫路藩の御用達をつとめた豪商の遺構」
とあり、江戸時代の室津の古地図や、古文書などが展示されている。上の画像は一本釣和船の模型である。

室津民族館 御殿雛

立派な雛壇が飾ってあったので、説明も読まずにカメラに収めたのだが、読者のつねまるさんから「八朔の雛祭り」が室津で行われていることを教えて戴いた。
調べると、室津では雛祭りは3月ではなく、八朔の日(旧暦の8月1日)に行われるのが古くからのならわしなのだそうだ。それはどういう経緯からなのだろうか。

カメラに収めた説明書きにはこう解説されていた。
永禄9年、龍野城主赤松政秀は浦上政宗に遺恨の事があり室山城に夜襲をかけました。
 この日室山城では浦上政宗の子、宗影の婚礼の日でした
。城中では宵までの酒盛りのため足腰の立つ者は少なく、満足に戦うことが出来ず負けてしまいました。
 婚礼の儀式を、いま挙げたばかりの花嫁は小長刀をとって立ち向かい、攻め入る敵を切りつけ存分に戦い、遂には自害されました。女とはいいながら見事なる振る舞いに武士の子女は、かくありたいものだと敵も味方も感心したとの事です。
 この室山城合戦が正月十一日であったため、室津では三月三日にはお雛祭りをせず、旧暦の八月一日(八朔の日)にするようになりました。
 八朔の雛祭りは室山城落城という郷土の歴史にかかわる風習です。」

毎年8月下旬に室津の家々でひな祭りをし、室津民族館などでひな人形が展示され、期間中には様々なイベントが行われるようである。今度訪れる時は、できればその時機に訪れたいものである。

見性寺 毘沙門天像

室津民族館のすぐ近くに見性寺(けんしょうじ)がある。
普段は公開されていないのだが、この寺の毘沙門天像は平安時代後期の制作で国の重要文化財に指定されている。毎年3月17日から21日の毘沙門祭りと室之津祭当日(11月6日)と決まっているようだ。

室津海駅館

次に室津海駅館(たつの市御津町室津457)を訪ねる。
この建物は、廻船問屋として活躍した豪商「嶋屋」の遺構で、この建物は江戸時代後期に嶋屋(三木)半四郎が建てたものだという。室津が繁栄していた時代の遺構の一つとして、現在はたつの市の指定文化財となっている。

室津には大名や旗本、幕府役人らが宿泊しただけでなく、外国人が室津に滞在した記録が残されている。

kenpel.jpg

長崎出島にあったオランダの商館長も、毎年江戸の将軍に拝礼する際に室津に立ち寄った。
展示室には、オランダ商館長の江戸参府に医師として随行したケンペルの著書『日本誌』に描かれた室津の絵図などが展示されていた。

朝鮮通信使

また室町時代から江戸時代にかけて李氏朝鮮より日本へ派遣された朝鮮通信使も室津に宿泊したという。
海上では大船団を組み、陸上では大行列を作って500人近い大集団が江戸への旅をしたのだそうだが、室津海駅館では当時の朝鮮通信使に饗応した料理の品々の模型が展示されていて、事前に予約すればその料理をここで味わうことが出来たようだ。
http://www.muro-shimaya.jp/kaiekikan.htm

室津

海駅館を出るとすぐに室津港だ。今はありふれた漁村の風景だが、ひと昔前はここに帆船が所狭しと係留されていたのである。

前回の記事で最後に紹介した浄運寺の裏手の坂を登りきると梅がさいていると聞き、せっかく梅の季節に来たのだからと思って100mばかりの急坂を登りきると、港の近くでありながら海やその周囲の家々が全く見えなくなり、高原かどこかにいるような錯覚を覚えた。

室津の梅

この梅の木から画像の背景となっている嫦峨山(じょうがやま)までは、まるで稜線が繋がっているように見えるのだが、実際には、この場所から嫦峨山の間には大きな窪みがあってそのなかに室津港と室津の街並みがあるのだ。

室津地図 2

国土地理院地図(電子国土Web)で調べると、この梅の木のある場所の標高は39m。浄運寺の標高は11m、室津海駅館は2mで、短い距離ながら随分標高差がある。
北にある嫦峨山(じょうがやま)の標高は264m。また東にも小さな山があり、室山城跡の標高は50m。西側にも少し離れて100mを越える山が続いている。
http://maps.gsi.go.jp/#16/34.768480/134.510443/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1j0l0u0t0z0r0f1

このように室津の北・東・南には、決して高くはないが山があって、いかに風が強く吹いても、ほとんどの風は室津の上空を通り過ぎていくだけだ。

波の静かな室津の海では平成10年から牡蠣の養殖が始まったのだそうだが、他の地域では出荷サイズになるまでに2~3年を要するところ、室津の牡蠣はわずか1年で立派なサイズになり、加熱しても縮みにくいのが特徴なのだそうだ。
http://www.pride-fish.jp/JPF/pref/detail.php?pk=1400656081

せっかく室津に来たのだから、昼食に牡蠣は欠かせないし、他の魚もいろいろ食べて帰りたい。
室津の街並みの中にもいくつか店があるのだが、車を走らせて国道250号線沿いの店に向かう。ぷりっとした牡蠣や、地蛸の刺身など何を食べても新鮮で旨かったのだが、ビールが飲めなかったのが辛かった。

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厳島神社と「雛めぐり」
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鞆の浦周辺の古い街並みを楽しむ
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郡上八幡の歴史と文化と古い街並みを楽しんで
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若いころはあまり歴史に興味を覚えなかったのですが、50歳のころに勝者が叙述する歴史が必ずしも真実ではないことに気が付き、調べているうちに日本史全般に興味が広がっていきました。

平成21年にBLOGariというブログサービスでブログを始めましたが、容量に限界がありバックアップもとれないので、しばらく新しい記事を掲載しながら、過去の主要な記事を当初の作成日にあわせて、4か月ほどかけてこちらのブログに手作業で移し替え、平成26年の1月に正式にこのブログに一本化しました。
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