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1300年以上の古い歴史を持つ神峰山寺と本山寺を訪ねて

大門寺紅葉

昨年の秋に「素晴らしい紅葉の古刹を訪ねて」という記事を書いて、大阪の茨木市の山奥にある大門寺という寺を紹介した。
http://shibayan1954.blog101.fc2.com/blog-entry-111.html

この大門寺を開いたのは桓武天皇の異母兄である開成皇子(かいじょうおうじ724-781)だが、開成皇子は天皇家の直系男子でありながら、正史である「続日本紀」には全く現れず、「元亨釈書」(日本最初の仏教通史:元享2年[1322]成立)、「本朝高僧伝」(元禄15年[1702]成立)、「拾遺往生伝」(12世紀前半)など、かなり後世に編まれた僧侶の伝記の中にだけ記されている人物で、母親が誰かもよくわかっていないそうだ。

北摂の山には、ほかにも開成皇子が創建に関わった古い寺院が少なくないのだが、1か月程前に、役行者(えんのぎょうじゃ)が開き、この開成皇子が創建したという言い伝えのある神峰山寺(かぶさんじ)と本山寺(ほんざんじ)を訪ねてきた。

また高槻市の安岡寺(あんこうじ)も開成皇子が創建したという言い伝えのある寺院だが、「北摂三山寺」ともよばれるこの神峰山寺・本山寺・安岡寺の三つの寺は、グーグルの地図で確認すると一直線上に並んでいることがわかる。(A:神峰山寺、B:本山寺、E:安岡寺)

大きな地図で見る



お寺の由来はどうなっているのか。
本山寺は寺伝によると、持統天皇10年(696年)に役小角が葛城山で修行中に北西に紫雲のたなびくのを見て霊験を感じ、北摂の山に来て自ら毘沙門天像を彫り、堂を建てて修験の道場として開山したのが始まりと伝えられている。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%AC%E5%B1%B1%E5%AF%BA_%28%E9%AB%98%E6%A7%BB%E5%B8%82%29
また『神峰山寺秘密縁起』によれば、697年(文武天皇元年)役行者が葛城山中より、葛城山と葛城山と北方の嶺とに金色の光が往来するのを見て当山を訪れ、地主神金毘羅童子のお告げにより、伽藍を建立、霊木を得たとされる。

この二つの寺の由来から考えると、本山寺と神峰山寺と葛城山とが直線上にあれば、寺の由来に強い説得力がでて、更にその直線上に安岡寺を配置すれば霊験が更に強まるように昔の人は考えたのではないかと仮説を立ててみたが、神峰山寺、本山寺、安岡寺を結ぶラインの延長線は、残念ながら奈良の葛城山よりかは西にずれてしまうようだ。

しかし、もう少し西にも(和泉)葛城山があり、この山は北摂三山寺のラインにかなり近いことに気が付いた。この山も役行者が開いた修験道の山であった。
いろいろ調べると、「葛城山」は古くは奈良・大阪府県境の金剛山地から、大阪・和歌山県境の和泉山脈に及ぶ逆L字形の山系の総称を指していたそうだ。
http://homepage3.nifty.com/enno-f/enno/enno_21.htm
とすれば、私の仮説がひょっとすると当たっているのかもしれない。

北摂三山寺はいずれも天台宗の寺で、開成皇子が創建にかかわったということのほかにもいくつかの共通点がある。

そのうちの一つは、いずれの寺もキリシタン大名であった高山友照・右近父子が高槻城主であった時期に破壊されたという伝承が残されている点だ。

高山右近

しかし残念なことに、高山右近らがこの地で活躍した時代の記録は残されておらず、あれだけ詳細に当時のキリスト教布教の歴史を記述したルイス・フロイスも、高山右近の寺院破壊については具体的な記述が乏しい。
また、先月訪れた神峰山寺と本山寺には立札にもパンフレットにもホームページにも高山右近の焼討にあった事は一言も書かれていないのだ。では、北摂三山寺が焼討にあったという根拠はどこにあるのか。

早稲田大学大学院教育学研究科紀要別冊15号-2に山下洋輔氏が「高山右近の寺社破壊に関する一考察」という論文を寄稿しておられ、ネットでも誰でも読む事が出来る。学術論文なので出典なども明記されている。
http://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/bitstream/2065/30131/1/KyoikugakuKenkyukaBessatsu_15_02_001_YAMASHITA.pdf
それによると、江戸時代に出版された「摂津名所図会」という書物に本山寺が、「摂陽群談」という書物に神峰山寺が高山右近によって焼討・破壊されたことが書かれているらしい。
山下論文によると安岡寺については高山右近によって焼かれたという記録はないようだが、高山父子が高槻城主であった時代に破壊にあったと伝えられているそうだ。ところがWikipediaでは安岡寺は天正年間に高山右近の兵火によって焼かれたと書かれているが、根拠となる出典については記されていない。

もう一つ神峰山寺、本山寺、安岡寺の3つの寺に共通する点は「勧請掛(かんじょうがけ)」という伝統行事が数百年にわたり続いている点である。ネットでその画像を見て、自分の目でどうしても見たくなって、先月に高槻の山奥を走って来たわけである。 最初に訪れたのが神峰山寺。写真を撮り損ねたが、お寺でありながら大きな鳥居があった。

神峰山寺勧請掛

鳥居を過ぎると、駐車場の近くに不思議な「勧請掛」が見えてくる。これは縄に12束の樒(しきみ)を結びつけたもので、毎年12月23日に掛け替えられるそうだ。次のURLに、昨年末にその作業をしているところを神峰山寺が編集した動画を見ることが出来る。
http://www.youtube.com/user/kabusanji#p/a/u/1/dSpysjBLawk

「勧請掛」の掛け替えは神峰山寺に数百年前から変わらずに行われている行事で、古い寺族檀家27軒だけにこの神事の作業を行うことが許されているそうだ。
「勧請(かんじょう)する」とは「神様をお呼びする」ということで、「この場所より奥は神域である」という意味があるという。

神峰山寺山門

勧請掛を過ぎてしばらく行くと、仁王門が見えてくる。仁王門の横にある神峰山寺の案内板には、
「…足利三大将軍義満や豊臣秀頼の生母淀殿らの寄進も多く、大いに栄えた。秀頼も諸堂を造営したと伝えられる。」
「しかし、江戸時代の中期の明和2年(1756)に火災で焼失し、安永6年(1777)に再建された。」と淡々と書かれており高山右近の破壊のことには触れていないが、どういう事情で秀頼が諸堂を造営したのかが問題なのである。

神峰山寺本堂

本堂には国の重要文化財に指定された阿弥陀如来座像、聖観音立像(いずれも平安時代のもの)があるが、残念ながら外からではあまりよく見えなかった。事前予約すれば、秘仏の毘沙門天(3体)を除く仏像を拝観できるそうだが、拝仏料が2000円となっている。また毘沙門天の内1体は秋の大祭で御開帳されるそうである。

神峰山寺は毎年1月9日の「初寅会」には修験者によって「大護摩供」と「火渡りの神事」などが行われるそうだし、また紅葉の頃も美しいことで有名だ。また行ってみたくなるお寺のひとつである。

神峰山寺の駐車場に戻って本山寺に向かう。道幅3メートル程度の細い道が3キロ程度続く。本山寺の駐車場からは一般車通行禁止で、約1kmを歩いて登ることになるが、これが結構厳しい上り坂である。

本山寺 勧請掛

上の画像が本山寺の勧請掛である。神峰山寺よりもこじんまりしているが、12束の樒(しきみ)を縄に結びつけるのは同じである。

本山寺本堂

更に進むと山門があり、もう少し行くと階段があり、本堂に辿り着く。

この寺の毘沙門天立像は日本三大毘沙門天(鞍馬寺、朝護孫子寺、本山寺)のうちの一つで、国の重要文化財に指定されているのだが、残念ながらこの秘仏が公開されるのは、年に3日のご開帳と定められており、1月3日、5月第2日曜日、11月第2日曜日の午後1時から3時ごろとなっているそうだ。

安岡寺はまだ行ったことがないのだが、次のURLで安岡寺の勧請掛の写真を見ることが出来る。縄に12束の樒を結びつけるのは、どうやら北摂三山寺すべてに共通のようだ。
http://mukago.osakazine.net/e242035.html

勧請掛は高槻に限らず、若狭・近江・伊賀・大和に多く分布し、集落の入り口や神社の入り口などに掛けられているそうだが、勧請掛の形は部落ごとに様々で、全く同じものはないそうだ。次のURLで様々な勧請掛(勧請縄)を見ることが出来るが、それぞれの地方で何百年もこの伝統が継承されていることは注目すべき事だと思う。
http://homepage2.nifty.com/kakitsubata05/fukei/040/main.htm

しかし、現在のような経済施策が続けられては都心や大企業が潤って多くの地方は豊かになることが難しい。若い世代を育てても、生活できる仕事が地元で見つからなければ、多くは地元を去っていく。
数百年の長い年月をかけて培われ、世代から世代に長い間引き継がれていった地方文化や伝統行事を承継していくことは、地元に残された人々の大変な苦労があるのだろう。

こういう伝統や文化を非科学的だと言う人も少なからずいることだろう。しかしながら、居住地域の文化と無縁な人々の集まりである都心部の人々が、これから高齢化が進んだ場合に、田舎で地域の文化を継承している人々よりもいつまでも幸せだと言えるのだろうか。
地域の共同体意識がほとんどない都心部は、単なる住居の集合体でしかない。これからは、都市部において無縁社会化が進行し老人の孤独死がますます増えていくだろう。

都心部よりも生活環境が厳しい田舎では、人々がお互い助け合いながら生きていくしかない。そのために、地域がまとまる仕組みをいろんな形で昔の人が残してくれたという見方もできるのだ。
お祭りもそうだし、今回紹介した勧請掛もそうだが、自分を育ててくれた両親や祖父母をはじめとする先祖が代々大切にしてきたものを、住民同士で継承し守り続けることによって地域の共同体意識を強め、厳しくもあり不便でもある田舎で、国や地方のお金や人手にあまり頼らずに、住んでいる人々がお互いに信頼し助け合いながら、それなりに幸せに生きていけるという素晴らしい智恵が隠されているような気がするのだ。
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京都のお寺に生まれ育ち、大学の経済学部を卒業してからは普通の会社に入りました。
若いころはあまり歴史に興味を覚えなかったのですが、50歳のころに勝者が叙述する歴史が必ずしも真実ではないことに気が付き、調べているうちに日本史全般に興味が広がっていきました。

平成21年にBLOGariというブログサービスでブログを始めましたが、容量に限界がありバックアップもとれないので、しばらく新しい記事を掲載しながら、過去の主要な記事を当初の作成日にあわせて、4か月ほどかけてこちらのブログに手作業で移し替え、平成26年の1月に正式にこのブログに一本化しました。
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