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「大原騒動」の史跡や飛騨の国宝や渓谷などを訪ねて白骨温泉へ

前回「大原騒動」のことを書いたが、記事の中で紹介した映画『莟し花』をYoutubeで見て感動し、岐阜方面の旅行の最初に飛騨一宮水無神社(ひだいちのみやみなしじんじゃ)を訪れる旅程を組んだ。

安永2年(1773)に、大原代官の強引な検地に反対する数千人とも1万人とも言われる飛騨の百姓たちがこの神社に集まったのだが、大原代官は郡上藩などの鉄砲隊の力を借りて、武器を所持していなかった集会参加者に銃火を浴びせて多くの犠牲者を出し、さらに本郷村善九郎ら集会の指導者を磔・獄門・遠島などの厳罰に処したという歴史がある。処罰されたのは農民だけではなく、この神社の神主も4名が捕えられ磔にされたのだそうだ。

飛騨一宮境内

自宅を早い時間に出て、11時頃飛騨一宮水無神社に到着した。
この神社の創建の時期は不詳だが、飛騨国の鎮守として古くより朝廷に崇敬されてきた神社であり、平安時代・清和天皇(在位:858~876)の貞観9年(867)に従五位上の神位を授けられたとの記録があるので、それよりも古い神社であることは間違いない。
社名の「水無」は、水主(みずぬし)を意味すると言われ、神社の南西にある「位山(くらいやま)」は、古くから川の水源(水主)の神の坐す霊山と仰がれてきたという。
境内は綺麗に掃き清められていて、清々しい気分で参拝を済ませる。

一宮神社ご神木の杉

境内には岐阜県の天然記念物に指定されている樹齢800年と推定される杉の大木があり、そのすぐ近くに「大原騒動 一宮大集会之地」と書かれた碑が建っていた。

大原騒動一宮大集会の地

このブログで何度か書いているのだが、歴史というものは為政者にとって都合の悪いことは公式には残されないものである。この碑文を読んで驚いたのだが、こういう歴史は現地を訪れないと知ることが難しい。
「…大原代官は、尋常の手段では到底鎮圧できぬと察し、江戸表へ急報、幕府は飛騨の近隣藩へ緊急出動を命じた。11月14日深夜、郡上藩勢3百人、代官所郡代、地役人40人が付き添い高山出立、途中松橋に一隊を残し、夜明け宮村に到着、鬼川原に伏せ、一隊は頭取会所久兵衛宅を始め神主宅・太七宅等に踏み込み、委細かまわずからめ捕った。山下の民家に宿泊していた農民は合図の鐘を聞き神社に向かって、鬼川原の鉄砲組が火蓋を切り負傷者、重傷者が出た。最後に郡上藩勢は力づくで拝殿を取り囲み神域は安全と教えられ、何の用意もしていなかった農民の集団に突っ込み、あたるを幸い十手で頭を打ち割り、刀で袈裟掛けに切りつけ、服や膝を突き通し、逃げるものには鉄砲を発射した。この日の即死者3名、負傷者200名、縛付けの者125名に及んだ。…」

碑文の全文は次のURLで読むことが出来る。
http://hino.anime.coocan.jp/ooharasoudou/ooharasoudou-03.htm

また境内には島崎藤村の父親である島崎正樹の歌碑があった。島崎正樹は明治時代の初期にこの神社の宮司を勤めていたのだそうだ。
春の訪れの遅いこの神社で、弥生の節句から1月遅れの4月3日に毎年「生きびな祭り」という伝統行事が行われ、飛騨一円から選ばれた女性が十二単に身を包むのだそうだ。

この神社のすぐ近くに樹齢1100年と言われる「臥龍桜(がりゅうざくら)」という有名な桜がある。国の天然記念物に指定されているので、JR高山本線の飛騨一ノ宮駅に車を置いて見に行った。

臥龍桜

「臥龍桜」という名は、幹枝の形が龍の臥した姿に似ていることから名付けられたという。高さは約20mで枝張りは30m程あるのだそうが、こんな桜の大木は見たことがない。
この桜も何度か枯死の危機があり、この桜を守ろうとする人々の努力で逞しく樹勢を回復したのだという。

臥龍桜を後にして、県立自然公園宇津江四十八滝に向かう。
公園のすぐ近くにある、八光苑という創作料理のお店で予定通り昼食をとる。

八光苑

この店は、画像の通り一見入り難そうなお店だが、川のせせらぎを聞く素晴らしい環境で飛騨の旬の食材がおいしく戴けて、価格もリーズナブルである。

八光苑昼食

食事を終えて県立自然公園の入口の駐車場に車を停めて、渓谷に向かう。
宇津江四十八滝は宇津江川の上流の渓谷にある瀧の総称で、1982年に森林文化協会と朝日新聞社が「21世紀に残したい自然100選」にこの渓谷を選んでいる。
http://www.shinrinbunka.com/datatable/1-1-01.html

渓谷に沿って遊歩道があり、歩きやすくよく整備されている。
苔のむした岩や樹木を縫うように進んでいくとところどころに瀧があり、暑い時にはこういう場所を歩くのは涼しくてとても気持ちが良い。

「四十八滝」とは言うものの名前のついている瀧は全部で13ある。

宇津江48滝1

この滝は上から上段瀧、函(はこ)瀧、平(ひら)瀧の三段の瀧が一望できるところ。

王瀧

この滝は、四十八滝の中で一番大きな「王滝」で、高さは18.8m。

宇津江48滝展望台

9つ目の瀧である障泥(あおり)瀧を過ぎると、展望台があり、北アルプスの山々が見える。

1時間ほど自然を楽しんで駐車場に戻り、次の目的地である安国寺(高山市国府町)に向かう。
ここに、飛騨の建造物としては唯一の国宝として知られる経蔵がある。中を案内していただくためには事前の予約が必要な場所で、約束していた時間に訪問した。

室町幕府を開いた足利尊氏は、京都天龍寺の夢窓国師の勧めで国ごとに安国寺を建てたことを学生時代に学んだが、説明によると足利尊氏はすべての安国寺を新築したのではなく、従来からある大きなお寺のいくつかを「安国寺」としたということらしい。
この飛騨国の安国寺は、以前からあった「少林寺」という寺の名前を改めて、宗派を臨済宗に変えて貞和3年(1347)に設立されたという。最盛期には七堂伽藍と9ケ寺の塔頭が並ぶ大寺院だったそうだが、戦国時代の天文、永禄年間に兵火にかかり、「経蔵」と「開山堂」だけが焼け残ったという。

安国寺経蔵

この建物が応永15年(1408)に建立された国宝の安国寺経蔵である。
国宝の周囲を太い杉の木がもっと多くとり囲んでいたそうだが、樹が倒れた場合に国宝の建物が守れないということで、国の予算で大きな杉の木が何本か切られているところだった。しかし、このような大きな杉の木があったからこそ、雨や風や火災からこの歴史のある建物が守られてきたのではないだろうかという思いが頭を掠めて、私には納得が出来なかった。

経蔵の内部に案内いただいた。内部は撮影禁止なので画像を紹介できないが、中にお経を収める回転式の八角の輪蔵(りんぞう)がある。この輪蔵は、室町時代に制作されたもので、回転式輪蔵としてはわが国の最古のものだという。岐阜県のHPで、この輪蔵の画像を見ることが出来る。
http://www.pref.gifu.lg.jp/kyoiku-bunka-sports/bunka-geijutsu/bunkazai-zuroku/bunkazai-zuroku/kenzobutsu/takayama/annkokuji.html
案内の方がこの輪蔵を少し回して下さったが、600年の年月が経過しても、今なお輪蔵としての機能を失っていないことに驚いた。

大原騒動義民の碑

この安国寺の境内に、「大原騒動義民碑」が建っているのでカメラに収めた。かなり大きな碑だが、多くの犠牲者が出た安永期の騒動の180年忌にあたり、この安国寺で大法要が営まれた際に建てられたのだそうだ。碑の裏面には犠牲者103人の出身地と名前が刻まれている。

冒頭に書いた飛騨一宮水無神社やこの安国寺のほかにも、大原騒動の義民の碑が数多くあるようだ。次のURLが参考になる。
http://tujigahana.blog.ocn.ne.jp/blog/2012/07/post_825f.html
為政者からすれば、一揆の犠牲者を「義民」とすることは、当時の政治を「悪政」であったことを自ら認めることになるが、そのようなことは政権が変わらなければあり得ないことだろう。
一方地元に生きる人々からすれば、「義民」として先祖の冥福を祈ることは、先祖の行ったことは正しく、それがゆえに自らは犯罪者の末裔ではないことを世に訴え、誇りを持って現世を生きようとする行為でもある。
立場が異なれば史実の解釈についても異なることになることは当然のことであり、為政者の公式記録だけを信頼して歴史を解釈しようとする姿勢には真実の解明に限界があるはずだ。かといって、庶民の書いた記録だけに依拠することにも問題があるだろう。
いつの時代もどこの国でも、真実が何かを探っていく上で、立場の違う様々な記録を読み、第三者の記録などを参考にしていく必要があるのだと思う。

宇津江四十八滝も安国寺も高山市国府町というところにあるが、この町は平成14年(2005)の市町村合併で高山市に編入され、それまでは岐阜県吉城郡国府町と呼んでいた場所である。
高山市とはいっても国府町にまで足を延ばす観光客は多くないようなのだが、国府町には安国寺のほかにも多くの文化財が残されている。

荒城神社本殿

たとえば安国寺のすぐ近くに荒城 (あらき)神社本殿がある。
荒城神社は平安時代の『延喜式』神名帳にも記載されている古い神社で、屋根は杮葺きで三間社流造の本殿は明徳元年(1390)に再建されたものだが、現在国の重要文化財に指定されている。またこの神社の周辺から縄文時代中期から後期にかけての土器や石器が出土したという。(荒城神社遺跡:岐阜県史跡)

国府町にはほかにも、阿多由太神社本殿や熊野神社本殿が国の重要文化財に指定されているので訪れたが、覆屋に覆われているために重要文化財を画像に収めることができなかった。
さらに岐阜県の重要文化財に指定されている円空仏のある清峰寺というお寺もあるが、今回は時間に余裕がなかったので見送ることにした。狭い地域でありながら、此れだけ貴重な文化財が存在することは、この地域は、昔はかなり豊かであったと考えられる。

winter_map_early_Dec.jpg

良い時間になったので、宿泊先の白骨温泉に向かう。昨年の12月に県道300号が開通して、平湯温泉から安房トンネルを抜け湯川渡を左折すれば10分程度で白骨温泉に到着出来るようになったのはありがたい。それまでは前川渡から乗鞍高原を経由していくしかなかったので、30分程度は時間短縮できたことになる。
http://www.shirahone.org/access/

県道300号を通って、高山からは1時間10分程度で宿泊先の新宅旅館に到着した。
新宅旅館

あまり良く知らなかったのだが、皇太子時代の今上天皇と高松宮もこの旅館に宿泊されたことがあるのだそうだ。
山々と緑の木々、野鳥の声に耳をすませながら、源泉かけ流しの白濁した温泉にゆったり浸かり、料理も美味しくて大満足の一日だった。

<つづく>

【ご参考】前回の記事で、「大原騒動」のことを書きました。興味のある方は覗いてみてください。

飛騨地方を舞台にした悪代官と義民の物語
http://shibayan1954.blog101.fc2.com/blog-entry-131.html

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平成21年にBLOGariというブログサービスでブログを始めましたが、容量に限界がありバックアップもとれないので、しばらく新しい記事を掲載しながら、過去の主要な記事を当初の作成日にあわせて、4か月ほどかけてこちらのブログに手作業で移し替え、平成26年の1月に正式にこのブログに一本化しました。
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