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大阪のてっぺん 浄瑠璃の里~~地域の文化を継承するということ

ドライブや旅行で地方に行くと、素晴らしい文化と繁栄の歴史を持ちながら、時代の流れと共に若い人が地元を離れて衰退し、その地方固有の伝統や文化も後継者を失っているのを見て悲しくなることがある。
いくら文化的に価値の高いものであったとしても、その文化を支えてきた仕組みがその地方に残らなければ、いずれ消滅してしまうことを避けることは難しいのだろう。

昔はどんな地方にも地元で働ける仕事が少なからずあり、若い世代の多くが地元に残ることが出来た。農業や林業や漁業をはじめ小規模ながらも様々な製造業や小売業などが地元に存在し、各家の長男は家の生業を継ぐ社会だったと思う。
しかし農林水産業での生活は厳しくなる一方で、地域での零細な製造業や小売業なども都会資本の大企業等に淘汰され、さらに役所まで統廃合されたために地元で働ける職場が激減している。

地元で家族を養えるだけの生活ができるような仕事がなければ、若い世代は地元を離れざるを得ない。その結果、地方は老齢化が進んでいくばかりだし、経済は縮小し都心部との地域間格差は拡大していかざるを得ない。

地方に残った有形・無形の文化は、それぞれの地域に代々居住している農業の従事者や、零細な事業者等によって永年にわたり承継されてきたものだが、地域に若い世代が残る仕組みの多くが崩壊した今、多くの地方でそれらの文化の存続が難しくなってきている。

古いお寺や神社の建物などは屋根などが傷んでも、地元の人々の寄付が集まらないために修復にお金をかけられず、祭りや踊りや浄瑠璃などの無形の文化は若い世代がいないために伝統の承継が容易ではないという地域は多い。観光客が集まって地元に多くのお金を落としてくれる場所であればともかく、大半の地域では稼ぎ手の多くを失い、共同体的な地域の人々のつながりが崩壊してしまって、その地域文化を残すことが次第に難しくなってきている。

能勢浄瑠璃の里

しかし大阪の北端にある豊能郡能勢町では200年以上の歴史がある浄瑠璃が今も地元の多くの人々によって支えられて、平成5年(1993)には大阪府の無形民俗文化財に指定され、ついで平成19年(2007)にはサントリー地域文化賞も受賞していることを知って興味を持った。
http://www.suntory.co.jp/news/2007/9849-2.html

サントリー地域文化賞の受賞理由にはこう書いてある。
「世襲ではない独自の家元制度により200年の伝統を重ねてきた能勢の浄瑠璃は、オリジナルな人形浄瑠璃を新たに作り出すなど、伝統を継承するだけではなく、能勢町全体で『浄瑠璃の里文化』の新たな発展に取り組んでいることが、高く評価された。」

「世襲でない独自の家元制度」とはどういうことなのか。
能勢の浄瑠璃は江戸時代中期・文化年間(1804年~1817年)に初代太夫が誕生し、竹本文太夫派・竹本井筒太夫派・竹本中美太夫派があり、お互いに競い合ってその伝統を継承してきたそうなのだが、2001年に新しく竹本東寿太夫派が誕生した。

能勢浄瑠璃流派

浄瑠璃の語り手を「太夫(たゆう)」というのだが、人口11千人程度の能勢町に、上記の4派で200名を超える太夫がいるというのだ。
それだけ多くの語り手がいる理由のひとつは、「おやじ制度」という仕組みで、弟子を採用して稽古をつけるだけでなく、外部から師匠を呼んで長期間稽古をつけて技芸を磨くのだが、歌舞伎の家元制度のように世襲ではないので、新たな「おやじ」がうまれて更にメンバーを拡大していくことで、浄瑠璃人口の拡大につながったと評価されている。
http://www.masse.or.jp/ikkrwebBrowse/material/files/group/7/20057p11_14.pdf

三味線

伝統の承継だけではなく「新たな発展に取り組んでいる」ということはどういうことなのか。
能勢浄瑠璃は、もともとは人形を使わずに語りと三味線だけで物語が進行する「素浄瑠璃」の伝統が200年近く続いたのだそうだ。
そして平成10年(1998)に新しく人形を加えて「ザ・能勢人形浄瑠璃」がデビューし、演目も古典ばかりでなく、オリジナルな作品を手掛け、平成18年(2006)には劇団として発展させた「能勢人形浄瑠璃鹿角(ろっかく)座」が誕生し、現在数多くの公演活動を行っているという。
「鹿角座」のホームページを見ると師匠に人間国宝の竹本住太夫(人形浄瑠璃文楽座太夫)、吉田蓑助(人形浄瑠璃文楽座人形遣い)も名前を連ねているから凄い。子供のメンバーもかなりいるようだ。
http://rokkakuza.jp/

浄瑠璃シアター入口

たまたま10月2日に能勢町の「浄るりシアター」で人形浄瑠璃の公演があることを知ったので、鑑賞しに行ってきた。
上の画像が能勢町の「浄るりシアター」だが、このシアターが完成したのは平成5年(1993)のことだ。

太夫の衣装

ロビーには人形浄瑠璃に使う人形や三味線、太夫の着る衣装などの資料が展示されている。

床本

上の画像は太夫が読む「床本(ゆかほん)」で、この太い特殊な字を読むことだけでもそれなりの訓練が必要だが、「太夫」はただ読むのではなく、三味線に合わせて独特な節回しで、登場する何人もの人物の声を使い分けて、仕草や演技の描写を伴う絶妙な語り口で、観客に物語の情景や展開のすべてを理解させる役割であるからかなりの熟練が必要なのだ。この「太夫」が能勢町に200人近くいるということは本当に凄いことなのである。

支援企業

地元の多くの企業がこのシアターの創設に関わっていることは、上の画像を見ればわかる。全国的に有名な企業はどこにもなく、地元の企業や団体ばかりだと思われる。
別の言い方をすれば能勢町では地元企業はこれだけ元気がいいし、多くの企業が地元の文化に誇りを持っているということなのだろう。

この日に浄るりシアターで開催されたのは、伝統的な能勢町の素浄瑠璃と徳島勝浦座の人形とのジョイント公演で、今回がその第20回目になるのだそうだ。

出し物は「傾城恋飛脚 新口村の段」「鎌倉三代記 三浦別れの段、高綱物語の段」「菅原伝授手習鑑 寺子屋の段」で、入場者全員に出し物の「床本集」が手渡される。
この床本集は太夫が読むような太い特殊な字ではなく、明朝体で印刷されいて誰でも読む事はできるのだが、公演が始まるとどうしても人形の動きと太夫の語りを聴くことに集中してしまうので、舞台を見ながら床本に目を通すことは難しい。

初めのうちは太夫の語りの言葉の意味がわからなかったり、登場人物の誰の言葉なのかがわからなかったりして理解に苦しんだが、幕間に床本を読むことによって次第に太夫の語り言葉がスッと頭に入るようになって、最後の「菅原伝授手習鑑」では、菅原道真公の子の命を守るために、我が一人息子の命を身代わりに差し出した親の切ない心を絞り出すように語る太夫の言葉が体に染みわたるように理解ができるようになり、途中から眼がしらが熱くなってきた。
浄瑠璃の床本はネットでもデータベースが公開されているが、たとえば「菅原伝授手習鑑」は、次のURLで読む事が出来る。
http://homepage2.nifty.com/hachisuke/yukahon/sugawara.html

今回上演されたのは「寺子屋の段」で、手渡された床本集には寺子屋の段までのあらすじが書かれていたのだが、幕間にこの難しい文章を読んでもなかなか理解できなかった。ところが人形の動きと太夫の語りを聴いているうちに、途中から物語を少しばかり理解できるようになったのは、太夫の語る技術と人形の動きや表情のお陰なのだろうと思う。

私が一番驚いたのは、このような難しい言葉の多い漢語調の文章を、床本を見ずに楽しんでいる観客の多さである。
テレビドラマなどとは全く比較にならないような中身の濃い物語を、能勢の人々は、昔から人形がなくとも、内容を理解して楽しんできた歴史がベースにあるのだ。
「素浄瑠璃」と言葉でいうのは簡単だが、何人もの登場人物の声を使い分けて、聴衆に物語を理解させる太夫の語りの技術は相当洗練されていないと観客を楽しませることはできない。
ハイレベルの語りの技術が伝承されてきたからこそ、この町に200年にわたる素浄瑠璃の歴史があり、今の時代でも多くの観客を呼べるのだろう。

能勢町のことは以前にもこのブログで記事を書いたが、この町にはお米や野菜などを買ったり、地元の美味しい食材を使ったレストランや食堂などがいくつかあって、最近よく訪れるようになった。

野間の大ケヤキ

ここでは食べるものが美味しいだけではなく景色も素晴らしい。天然記念物の「野間の大ケヤキ」はスケールの大きさにも驚くが、新緑の季節は緑が鮮やかで美しい。
http://shibayan1954.blog101.fc2.com/blog-entry-183.html

またこの町は、地域の中で経済がうまく循環していて、昔ながらのお店がたくさん残っているのも魅力の一つだ。大手チェーン店がこの町に進出して来ないのは人口密度が115人/㎢と低いことによるのだと思うが、私のように都市部から買物にくる消費者が少なからずいることがこの町の活性化に繋がっているのではないか。

能勢の里

週末に良く行く道の駅(能勢町観光物産センター)は大変な盛況だし、他にも昔ながらの手作りの豆腐や手作りの丁稚羊羹の店などによく行っている。

能勢の棚田2

能勢町では、どこの街にでもあるようなチェーン店の派手な看板はほとんど見当たらず、美しい自然の中にお寺や神社や人々の家や店舗が調和して存在しているようで、絵になる景色が多くて癒されるのだ。

今回の公演で「鎌倉三代記 三浦別れの段」で太夫を務めた能勢町長の中和博氏が、強いリーダーシップを発揮して能勢町を浄瑠璃の里として広めておられる。町に200年以上続く伝統を、次の世代につなげていく施策こそが地域の連帯を強めて、その伝統が価値を持ち続ける限り、人々は郷土の誇りを失うことなく今までどおりの生活を続けることが出来るのだと思う。

愛すべき郷土があり、郷土の為に尽くすことができる人生は幸せである。能勢の人々にはその愛すべき対象が残されている。しかるに、都会人の多くは自分が尽くすべき郷土を失ってしまったかのようである。

能勢町が持つ田舎の魅力とパワーをいつまでも失わずにいて欲しいし、200年以上続いた人形浄瑠璃の伝統を、これからの200年も是非つなげて欲しいものだ。
私もこれからも時々ここに買物に来て、この地域の生産者の生活に少しでもプラスになればと思うし、他の地域の伝統文化なども応援していきたい。
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Re: ええええー。能勢町。いい土地だったのですね。
○木○子さん、ありがとうございます。
6年ほど前に書いた記事を読んで頂きとてもうれしいです。

島根県はあまり行っていないのですが、そういう所も機会を作って行ってみたいです。
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平成21年にBLOGariというブログサービスでブログを始めましたが、容量に限界がありバックアップもとれないので、しばらく新しい記事を掲載しながら、過去の主要な記事を当初の作成日にあわせて、4か月ほどかけてこちらのブログに手作業で移し替え、平成26年の1月に正式にこのブログに一本化しました。
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