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尾崎秀実の手記を読めば共産主義者が軍部や右翼を自家薬篭中のものにした事がわかる

前回の記事で近衛文麿が、軍部内の革新論に立つメンバーが、わが国を共産革命に引きずり込もうとする官僚などに踊らされて、満州事変、支那事変を起こし、事変を拡大させて大東亜戦争に導いたのは計画的なものであったことは明らかであると述べていることを紹介したが、一人だけだとあまり信用していただけないと思うので、今回は軍部を動かしていた側の文書を紹介してみたい。

共産主義者に軍部を動かす動機があったことを知るためには、レーニンの「敗戦革命論」を知る必要がある。レーニンは1920年のモスクワ共産党細胞書記長会議でこのように述べている。

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「全世界における社会主義の終局的勝利に至るまでの間、長期間にわたってわれわれの基本的原則となるべき規則がある。その原則とは、資本主義国間の矛盾的対立を利用して、これらの諸国を互いにかみ合わすことである。われわれが世界を征服せず、かつ資本主義諸国よりも劣勢である間は、帝国主義国家間の矛盾対立を巧妙に利用するという規則を厳守しなければならぬ。現在われわれは敵国に包囲されている。もし敵国を打倒することができないとすれば、敵国が相互にかみ合うよう自分の力を巧妙に配置しなければならない。そして、われわれが資本主義諸国を打倒し得る程強固となり次第、直ちにその襟首を掴まなければならない。」(三田村武夫『大東亜戦争とスターリンの謀略』p.37)

このレーニンの考え方が、8年後の1928年コミンテルン第6回大会ではもっと過激で具体的なものとなっている。
「現代の戦争は、帝国主義国家相互間の戦争、ソ連及び革命国家に対する帝国主義国家の反革命戦争、プロレタリア革命軍の帝国主義国家に対する革命戦争の三つに分類し得るが、…、右の分類による第二の戦争は一方的反動戦争なるが故に勿論断固反対しなければならない。また第三の戦争は世界革命の一環としてその正当性を支持し帝国主義の武力行使に反対しなければならないが、第一の帝国主義相互間の戦争に際しては、その国のプロレタリアートは各々自国政府の失敗と、この戦争を反ブルジョワ的内乱戦たらしめることを主要目的としなければならない。…

帝国主義戦争が勃発した場合における共産主義者の政治綱領は、
(1) 自国政府の敗北を助成すること
(2) 帝国主義戦争を自己崩壊の内乱戦たらしめること
(3) 民主的な方法による正義の平和は到底不可能であるが故に、戦争を通じてプロレタリア革命を遂行すること。

帝国主義戦争を自己崩壊の内乱戦たらしめることは、大衆の革命的前進を意味するものなるが故に、この革命的前進を阻止する所謂「戦争防止」運動は之を拒否しなければならない。

(現在の帝国主義国家の軍隊の)最近の傾向は、第二次大戦の危機を前にして各国共に、人民の全部を軍隊にする傾向が増大して来てゐる。この現象は搾取者と被搾取者の関係を軍隊内に発生せしめるものであって、大衆の軍隊化は『エンゲルス』に従へばブルジョワの軍隊を内部から崩壊せしめる力となるものである。この故に共産主義者はブルジョアの軍隊に反対すべきに非ずして進んで入隊し、之を内部から崩壊せしめることに努力しなければならない。…」(同上書 p.38-40)

コミンテルンは共産主義者に対し、資本主義国家間の戦争に対しては、自国の軍隊に進んで参加して自己崩壊の内乱戦とし、自国政府の敗戦に導くことによりプロレタリア革命を遂行せよと指令し、ソ連に対する戦争は反革命であり断固反対せよと指令しているのだ。

ゾルゲ事件の首謀者として昭和19年に絞首刑となった尾崎秀実は、生前に残した手記でこのように書いているが、この内容はコミンテルンの方針とよく符合しており、コミンテルンの方針に沿ったものであることは読めば明らかである。ポイントとなる部分を少し紹介してみよう。

尾崎秀実

「我々のグループの目的任務は、特にゾルゲから聞いた訳ではりませぬが私が理解する所では、広義にコミンテルンの目指す世界共産主義革命遂行の為、日本における革命情勢の進展と之に対する反革命の勢力関係の現実を正確に把握し得る種類の情報竝びに之に関する正確なる意見をモスコー(モスクワ)に諜報することにあり。狭義には世界共産主義革命遂行上最も重要にして其の支柱たるソ連を日本帝国主義より防衛する為、日本の国内情勢、殊に政治経済外交軍事等の諸情勢を正確且つ迅速に報道し且つ意見を申し送って、ソ連防衛の資料たらしめるに在るのであります。」(同上書 p.214)
我々のグループと言うのは「ゾルゲ諜報団」のことだが、このグループはコミンテルンの目指す世界共産主義革命の実現のため、また日本帝国主義からソ連を守るために情報を流す活動をしていたことを明確に書いている。

また、尾崎が当時の世界情勢をどう考えていたかという点についてはこう書いている。
「私はこの第二次世界戦争の過程を通じて世界共産主義革命が完全に成就しない迄も決定的な段階に達することを確信するものであります。その理由は、
第一に、世界帝国主義国相互間の戦争は、結局相互の極端なる破壊を惹起し、彼等自体の現存社会経済体制を崩壊せしめるに至るであろうと云ふことであります。…敗戦国家に於ては第一次世界大戦の場合と同様プロレタリア革命に移行する可能性が最も多く、又仮令一方が勝ち残つた場合でも、戦勝国は内部的な疲弊と敵対国の社会変革の影響とによつて社会革命勃発の可能性なしとしないのであります。
第二には、共産主義国家たるソ連邦の存在してゐる事実であります。私はソ連邦はあくまで帝国主義諸国家間の混戦に超然たるべきものであると考へ、その意味においてソ連邦の平和政策は成功であると考えていたのであります。…
第三には、植民地、半植民地が此の戦争の過程を通じて自己解放を遂げ、その間に或る民族に於いては共産主義的方向に進むであらうと言ふことであります。少なくとも支那に対しては斯る現実の期待がかけ得られると思はれます。」(同上書p.223)
と、尾崎は第二次世界大戦の過程を通じて、世界共産主義革命が完成に近づくものと考え、中国については特に期待していたと書いている。

そして尾崎自身は第二次世界大戦は次のようなものになると思い描いていたという。
「…私がしきりに心に描いていたところは、次の如きものでありました。
第一に、日本は独逸と提携するであろうこと。
第二に、日本は結局英米と相戦ふに至るであろうこと。
第三に、最後に我々はソ連の力を借り、先づ支那の社会主義国家への転換を図り、これとの関連において日本自体の社会主義国家への転換を図ること。」(同上書p.227)
そして尾崎が考えていた通りに、その後日本はドイツと同盟を結び、英米との戦いに突入する。

次が重要な部分である。
「私の立場から言へば、日本なり独逸なりが簡単に崩れ去つて英米の全勝に終わるのは甚だ好ましくないのであります。(大体両陣営の抗戦は長期化するであらうとの見通しでありますが)万一かかる場合になつた時に英米の全勝に終らしめないためにも、日本は社会体制の転換を以て、ソ連、支那と結び別な角度から英米に対抗する姿勢を採るべきであると考へました。此の意味に於て、日本は戦争の始めから、米英に抑圧せられつゝある南方諸民族の解放をスローガンとして進むことは大いに意味があると考えたのでありまして、私は従来とても南方民族の自己解放を「東亜新秩序」創設の絶対要件であるといふことをしきりに主張しておりましたのはかゝる含みを籠めてのことであります。この点は日本の国粋的南進主義者の主張とも殆んど矛盾することなく主張されている点であります。」(同上書p.227)
共産主義者の尾崎からすれば、この戦争で日本やドイツが簡単に敗れて英米の勝利に終わることは望ましい事ではなく、コミンテルンの指導の通りこの戦争を機に世界の共産革命に持ち込むことを望んでいたことが分かる。
また独ソ戦勃発以降、日本はドイツを助けるため北進してソ連と戦うか(北進論)、欧米の援蒋ルートを絶ち、資源確保のために仏印に進駐するか(南進論)の選択を迫られたのだが、わが国が南進論を選択したのは、尾崎の影響が大きかったと言われている。
「大東亜共栄圏」「八紘一宇」という崇高な理想を掲げたスローガンも、一部は「国粋的南進主義者」が作ったものかもしれないが、尾崎グループが日本軍をソ連と戦わせないよう、皇軍を南進に導くために何度も主張したことが書かれているのだ。

大東亜戦争とスターリンの謀略

今回の記事ですでに何度か引用させていただいた三田村武夫氏の『大東亜戦争とスターリンの謀略』という本には、このような当時の史料が満載で、第二次世界大戦にコミンテルンがどう関わったかを学ぶことができる良書なのだが、昭和25年にGHQにより販売禁止とされて長い間埋もれてしまっていた。遠山景久氏の努力により昭和62年に復刊されてその後何度か再版されているが、一般の書店には出回っていない書物である。

第56-57代内閣総理大臣の岸信介はこの本の序文にこう書いていることは注目に値する。

岸信介

「…支那事変を長期化させ、日支和平の芽をつぶし、日本をして対ソ戦略から、対米英仏蘭の南進戦略に転換させて、遂に大東亜戦争を引き起こさせた張本人は、ソ連のスターリンが指導するコミンテルンであり、日本国内で巧妙にこれを誘導したのが、共産主義者、尾崎秀実であった、ということが、実に赤裸々に描写されているではないか。
 近衛文麿、東条英機の両首相をはじめ、この私まで含めて、支那事変から大東亜戦争を指導した我々は、言うなればスターリンと尾崎に踊らされた操り人形だったということになる。
私が東京裁判でA級戦犯として戦争責任を追及されたが、今、思うに、東京裁判の被告席に座るべき真の戦争犯罪人はスターリンでなければならない。然るに、このスターリンの部下が、東京裁判の検事となり、判事を務めたのだから、まことに茶番と言うほかない。

この本を読めば、共産主義者が如何に右翼・軍部を自家薬篭中のものにしたかがよく判る。なぜそれができたのか、誰しも疑問に思うところであろう。然し考えてみれば、本来この両者(右翼と左翼)は共に全体主義であり、一党独裁・計画経済を基本としている点では同じである。当時戦争遂行のために軍部がとった政治は、まさに一党独裁(翼賛政治)、計画経済(国家総動員法→生産統制と配給制)であり、驚くべき程、今日のソ連体制と類似している。ここに先述の疑問を解く鍵があるように思われる。…」(同上書 p.319-320)

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三田村武夫氏の『大東亜戦争とスターリンの謀略』はGHQが我が国での販売を禁止した本なのだが、英訳されてGHQの情報部長であったウィロビーの眼に止まり、米国で「ゾルゲ捜査」を始めるきっかけとなり、その後ルーズベルト政権や戦前の日本政府に入っていた共産主義者の追及につながったと言われている。

いつの時代もどこの国でも情報工作活動を伴う出来事については、工作を仕掛けた側から動機や経緯などが詳細に書かれた史料が公表されることがほとんどないために、記述にはある程度著者の推測が伴うことは已むを得ないが、この三田村氏の著作については特に共産主義者の立場からの考察は説得力があり、かなり核心を突いた記述であると思うのだ。

多くの人に読んでほしい一冊なのだが、出版社側も通常の販売ルートに乗せられない事情があるのか書店での入手は出来ず、私は「GHQ発禁図書刊行会」というところから数年前に入手した。
この書が国民に幅広く読まれたら、『東京裁判史観』が崩壊することは確実だと思うのだが、そうさせたくない勢力が、わが国のマスコミや出版界、教育界などに未だに根強く残っているということなのだろう。
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上○○子さん、嬉しいコメントありがとうございます。とても励みになります。

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