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全焼したはずの坂本龍馬ゆかりの宿「寺田屋」~~平成の「寺田屋騒動」

9月5日の「龍馬伝」は第36回「寺田屋騒動」だった。
京都に生まれ育ったものの、寺田屋は遠かったので行ったことがなかった。こういう番組を見てしまうと急に行きたくなって、たまたま10日が振替休日だったので、平日の方が観光客が少ないかと考えて出かけてきたが、朝10時のオープンを待つ人が随分大勢並んでいたのに驚いた。観光バスのツアーで来ておられる人も少なからずいたようだ。

開館前の寺田屋

中に入ると龍馬やお龍、お登勢の写真から、幕末の志士の写真や手紙等のコピーなどが所狭しと飾られている。
寺田屋内部

いつ誰が付けたかよくわからないが刀痕のある柱もあり、お龍が龍馬に裸で追っ手を知らせた時に登ったという階段や、昔の風呂桶なども残されている。
寺田屋風呂

多くの観光客は、龍馬のいた時代のままで残されているものと錯覚してしまう。

展示物の中にはいくつか新聞の切り抜きの様なものがあり、その中に京都新聞の『「幕末の寺田屋」焼失確認』という記事のコピーが目に止まった。この記事を読むと、どうやら寺田屋は2年前に京都市から展示内容が見学者に誤解を与えないようにとの指導を受けていたようなのだ。幕末の寺田屋が焼失したのが事実ならば、刀痕や風呂桶は一体何なのだ。

こういうことを調べることは大好きなので、早速自宅に戻ってからいろいろパソコンで調べてみた。

当時の新聞記事検索はリンクが切れてしまっているが、Wikipediaでは産経新聞の当時の記事が、Web魚拓で紹介されていた。
http://megalodon.jp/2008-0925-2222-53/sankei.jp.msn.com/life/trend/080925/trd0809252043008-n1.htm   

京都新聞の記事を探したが2年前の記事は見つからず、社会部の佐藤知幸記者の「取材ノート」というコラムは、リンクが切れておらず誰でも読む事が出来る。
http://www.kyoto-np.co.jp/kp/rensai/syuzainote/2009/090519.html
ここでは佐藤記者は寺田屋の営業行為を「歴史に対する裏切り」とまで書いている。

京都市は、寺田屋は慶応4年の鳥羽伏見の戦いで焼失してしまったと結論し、寺田屋は「今も一部が焼失しただけ」と考えて今まで通り営業活動を続けるが、市の見解も伝えるように努力するとのスタンスだそうだ。館内に京都新聞の記事を展示したのは、京都市の見解を見学者に伝えなければならないので、こっそりと貼り出したものだろう。

寺田屋は全焼したのか、あるいは一部焼失だったのか、ここがポイントである。

この問題に最初に火をつけたのは「週刊ポスト」2008年9月1日号だそうで、この雑誌には寺田屋は鳥羽伏見の戦いで全焼したと書かれていたらしい。
その記事の取材を受けた京都市産業観光局観光部観光企画課は、週刊ポスト誌に対し調査を約束し、京都市歴史資料館にその調査を依頼したところ「寺田屋は鳥羽伏見戦で焼失した」ことが史実であるということとなり、それを各報道機関に配布したことが当時の新聞で採り上げられて、先程紹介した産経新聞の記事はその一例である。

では、寺田屋が全焼したという根拠はどこにあるのか。
この点については、なかさんのサイトに非常に詳しく書かれている。
http://yoppa.blog2.fc2.com/blog-entry-546.html

詳しくは、上記のサイトに根拠となる史料まで添付されているので興味のある方は確認していただきたいが、一部を紹介すると
① 鳥羽伏見の戦いで焼けた地域の瓦版が京都市歴史資料館に残されていて、3つの史料から寺田屋のあたりは焼失地域であることが確認できること。(紹介したサイトで画像が確認できます。)
② 現在の寺田屋の東隣にある空き地に明治27年(1894)に建立された「薩藩九烈士遺跡表」という碑が立っている。
この碑文の文言の中に、「寺田屋遺址」という言葉があり、寺田屋のあったこの場所に碑を建てたという趣旨が書かれていること。

寺田屋騒動記念碑

③ 昭和4年の「伏見町誌」に「寺田屋遺址 字南濱に在り,現在の建物の東隣を遺址とす」と書かれていること。
④ 西村天囚という漢学者が明治29年に寺田屋を訪問し、「紀行八種」という本の中で、「寺田屋は,伏見の兵火に焚けしかば,家の跡を取拂ひて,近き比此に銅碑を建てゝ,寺田屋は其西に建てけり」と書いていること。
あたりを読めば納得していただけるのではないだろうか。
以上を総合すれば、今の寺田屋は明治になって建て替えられ、幕末の寺田屋はその東隣の土地だったということになる。

Wikipediaによると、現在の寺田屋の建物の登記は明治38年(1905)だそうだし、湯殿のある部分は明治41年(1908)だそうだ。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AF%BA%E7%94%B0%E5%B1%8B%E4%BA%8B%E4%BB%B6

また、大正年間に、現在の寺田屋の土地建物は幕末当時の寺田家のものではなくなったらしく、昭和30年代に「第14代寺田屋伊助」を自称する人物が営業を始めたとも書いてある。その人物とは幕末の寺田家とは関係がない人物というのだ。

寺田屋のパンフレットでは、「当時の状況を、第14代寺田屋伊助の考証により復元したものである」として宿の1階と2階の間取りが立体的に描かれており、この部屋は龍馬が襲われた部屋だの、この階段は龍馬に知らせようとお龍が裸のまま駆けあがった階段だのと説明書きがいくつもされている。

寺田屋パンフ

このパンフレットであれば、「今の建物の説明をしているのではなく、当時の建物はこうだったとして書いています」という言いわけが出来てしまうだろう。こう書けば、京都市の指導をうまく逃れることができるとでも考えたのであろうか。

そもそも、「考証」したという人物が「第14代寺田屋伊助」である。この人物をネットで調べると、昭和37~38年頃にこの古い建物を買取って旅館経営に乗り出し、本名は「安達清」といい、元は警察官で幕末の寺田屋の寺田家とは何の縁もゆかりもないようだ。7年前に亡くなられたそうだが、そんな人物が「考証」したとする図面をそのまま信じていいのだろうか。現在の寺田屋に近い図面をパンフレットに載せただけなのではないだろうか。

司馬遼太郎が産経新聞に「竜馬が行く」の連載を始めたのが昭和37年6月だが、その時期にこの人物は旅館業を始め、当時の龍馬ブームに乗っかって営業を軌道に乗せたのだろう。 なによりも腹立たしいのは、幕末の寺田屋が焼失したこととこの建物が明治になって改築されたものであることを一言も説明せず、入口にもパンフレットにも堂々と「史跡」と書いていることである。

観光客は本物を求めている。そのために時間をかけ、お金を使って見学に来ている。どれが本物か、どれがレプリカであるかがせめてわかるように展示してほしい。旅行業者も旅行に関する書籍の出版社も、本物かどうかは見極めたうえでキチンと書くべきである。言いたいことは、ただそれだけである。
寺田屋の今の営業のやりかたは見学者を欺くものであり、「観光地偽装」と言われても仕方がない。模造品のコレクションとはいえ、それなりに珍しいものが展示されているのだから、誤解されるような展示手法はやめていただきたい。

寺田屋だけではないと思うのだが、歴史ブームに乗っかって、歴史の事実を曲げてまで、利益のためなら何でもやるような商売のやり方がまかり通らないようにしてほしいものだと思う。
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Comment
こんばんは。いつもお世話になっております。
久々にこの界隈を散策しまして。私はこの寺田屋を見るたびに嫌ぁな気分になります。このニュースの当時の事、よく覚えています。
wikipediaにも「寺田屋なるもの」と書かれていたり、各所で焼失した旨を注意してはいますが、充分下調べしてから訪れる観光客ばかりではありませんものね。

しばやん様のおっしゃる通り、レプリカと本物の区別、また、史実と伝承の区別ははっきりさせるべきだと思います。
来年の大河に向けて着々と準備している九度山にも、少し心配しております。一時のブームに乗るだけでは、数年後には誰も見向きもしなくなるのではないかしら。
まぁ、九度山と高野山の繋がりをピックアップしたところで真田さんの集客力には負けるのでしょうが、すぐそこに本物があるのにもったいないなぁと思います。
Re: タイトルなし
つねまるさん、こんばんは。こちらこそいつもお世話になっています。

本物の「史跡」なのか、ブームに便乗しただけの「施設」なのかは大切なことなのですが、そういうことにもっとこだわって観光して欲しいと思うことが時々あります。

長い目で見れば「本物」が残ると考えがちなのですが、「本物」の価値を失わずに後世に残すことは容易なことではありません。
価値ある文化財であっても、観光地として有名でなかったり、観光バスが駐車できるスペースがなかったり、車線が細かったりすれば、観光収入はわずかしかな、建物が老朽化しても修理することもできません。

私に出来ることは、そういう場所を紹介することくらいですが、少しでも本物の価値を伝えることができればと思っています。つねまるさんも一緒にがんばりましょう。
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若いころはあまり歴史に興味を覚えなかったのですが、50歳のころに勝者が叙述する歴史が必ずしも真実ではないことに気が付き、調べているうちに日本史全般に興味が広がっていきました。

平成21年にBLOGariというブログサービスでブログを始めましたが、容量に限界がありバックアップもとれないので、しばらく新しい記事を掲載しながら、過去の主要な記事を当初の作成日にあわせて、4か月ほどかけてこちらのブログに手作業で移し替え、平成26年の1月に正式にこのブログに一本化しました。
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