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関東軍は昭和の初期からソ連の工作活動の重要な対象であった

以前このブログで、昭和3年(1928)6月4日の「満州某重大事件(張作霖爆殺事件)」の事を2回に分けて書いた。
http://shibayan1954.blog101.fc2.com/blog-entry-205.html
http://shibayan1954.blog101.fc2.com/blog-entry-206.html

張作霖爆殺事件

わが国の教科書では今も日本軍(関東軍)が張作霖を暗殺したと書かれているのだが、ソ連の機密文書ではソ連が実行し日本人の仕業に見せかけたものだと書かれており、イギリスの外交文書においてもソ連に犯罪の責任があると記されている。
この事件に関する記録を読むと通説と大きく矛盾することばかりで、現場検証をした関東軍参謀長斎藤恒(ひさし)は、参謀本部に対して「破壊せし車両及鉄橋被害の痕跡に照らし橋脚上部附近か、又は列車自体に装置せられしものなること略推測に難しとせず。」と報告し、奉天領事であった内田五郎も「爆薬は橋上地下又は地面に装置したものとは思はれず、又側面又は橋上より投擲したるものとも認め得ず」と記録している。現場の写真を見ると、線路は傷んでおらず地面に穴も開いていない。列車の台車部分は原型をとどめているのに、列車は脱線していなかった。どう考えても爆薬は車両か京奉線の上を走る満鉄線の橋に仕掛けられていたはずなのだが、京奉線の線路に仕掛けたという河本大佐の自白内容が作り話であることは明らかなのである。

河本大作

この事件は調べていくとおかしなことだらけなのだが、計画を立案したという河本大佐本人は軍法会議にかけられることもなく、翌年の4月に予備役に編入されるという人事上の軽い処分にとどまり、なぜか事件はもみ消されているのである。松井石根陸軍大将はこの処分に反対し最後まで厳罰を要求し続けたが叶わなかったという。
それだけではない。その後河本は南満州鉄道の理事となり、さらに満州炭鉱の理事長に就任しているのだが、百歩譲って河本の証言が正しかったとしても、軍の命令もなく外国の要人を暗殺した首謀者を優遇するような人事は誰でもおかしいと思うだろう。
昭和初期の頃から、関東軍の上層部にはソ連の工作で動くメンバーが少なからず存在して、関東軍の人事権まで掌握していたということではなかったか。

じつは、この張作霖爆殺事件があった翌月にモスクワで開催された第6回コミンテルン*世界大会が開かれており、そこで決議された異常な内容がこの時代に全世界で頻発したテロ事件を読み解くヒントになるのではないかと私は考えている。三田村武夫氏の『大東亜戦争とスターリンの謀略』にその決議内容が要約されている。
*コミンテルン: 共産主義政党の国際組織。第3インターナショナルともいう。

帝国主義相互間の戦争に際しては、その国のプロレタリアートは各々自国政府の失敗と、この戦争を反ブルジョワ的内乱戦たらしめることを主要目的としなければならない。…

帝国主義戦争が勃発した場合における共産主義者の政治綱領は、
(1) 自国政府の敗北を助成すること
(2) 帝国主義戦争を自己崩壊の内乱戦たらしめること

(3) 民主的な方法による正義の平和は到底不可能であるが故に、戦争を通じてプロレタリア革命を遂行すること。

… 帝国主義戦争を自己崩壊の内乱戦たらしめることは、大衆の革命的前進を意味するものなるが故に、この革命的前進を阻止する所謂「戦争防止」運動は之を拒否しなければならない。
…大衆の軍隊化は『エンゲルス』に従えばブルジョワの軍隊を内部から崩壊せしめる力となるものである。この故に共産主義者はブルジョアの軍隊に反対すべきに非ずして進んで入隊し、之を内部から崩壊せしめることに努力しなければならない。…」(三田村武夫『大東亜戦争とスターリンの謀略』p.38-40)

このような考え方はレーニンが最初に考えた『敗戦革命論』と呼ばれているものだが、共産主義者は革命を成功させるために進んで軍隊に入隊し、国家を内部から崩壊せしめる力とし、自国政府の敗北を導けという考え方である。

レーニン

その考え方だけでも恐ろしいのだが、その方法についてレーニンはこう記している。
「『政治闘争に於いては逃口上や嘘言も必要である』… 『共産主義者は、いかなる犠牲も辞さない覚悟がなければならない。――あらゆる種類の詐欺、手管、および策略を用いて非合法方法を活用し、真実をごまかしかつ隠蔽しても差し支えない。』…
『党はブルジョア陣営内の小競り合い、衝突、不和に乗じ、事情の如何によって、不意に急速に闘争形態を変えることが出来なければならない』
『共産主義者は、ブルジョア合法性に依存すべきではない。公然たる組織と並んで、革命の際非常に役立つ秘密の機関を到るところに作らねばならない。
』」(同上書 p.41-42)

ソ連は世界の共産国化をはかるために、各国の政治家、官僚、マスコミ、教育機関などに工作をかけていったのだが、とりわけ最重要の工作対象が軍隊であったことは言うまでもない。大量の武器と弾薬を持つ敵国の軍隊の工作に成功すれば、敵国の自国に対する攻撃力を弱めるだけでなく、敵国で武力革命を起こさせることも不可能ではないのだ。

今のわが国では共産主義思想の信奉者はごく少数だと思うのだが、当時においては共産主義思想が若い世代を中心に急速に広がっていて、マルクスやレーニンの全集が次々と出版されていた。日本初の『マルクス・エンゲルス全集』が全二十七巻で改造社から刊行されたのは昭和3~10年。二十四巻の『レーニン叢書』が白揚社から刊行されたのは昭和2~3年。十五巻の『スターリン・ブハーリン著作集』が同じく白揚社から刊行されたのは昭和3~5年で、このような共産主義思想書が飛ぶように売れていた時代であったことは重要なポイントである。ソ連にとっては、共産思想に飛びついた日本人の中から協力者を見出すことは決して難しくなかったと思われる。
軍部においてもかなりソ連に工作されていたことは、神戸大学経済経営研究所「新聞記事文庫」の検索機能を使って探すと、当時の新聞記事でいくつも確認することができる。

大正12年5月2日 大阪毎日新聞 露国の世界赤化運動
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/das/jsp/ja/ContentViewM.jsp?METAID=10100242&TYPE=IMAGE_FILE&POS=1&LANG=JA
最初に紹介する記事は大正12年5月2日の大阪毎日新聞の記事だが、この時点でシベリアや満州・朝鮮半島はソ連による赤化はかなり成功していたことが記されている。アメリカにおいてもかなり浸透していて、我が国については「帝国内においても可なり運動は熱心に試みられている」とのみ記されている。

昭和3年4月11日 大阪朝日新聞 『日本共産党』の大検挙
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/das/jsp/ja/ContentViewM.jsp?METAID=10070605&TYPE=IMAGE_FILE&POS=1&LANG=JA
張作霖爆殺事件が起こった昭和3年の新聞記事を調べると、この年の3月15日に日本共産党の大検挙が行われていて多くの学生が検挙されている。

昭和3年4月14日 神戸又新日報 共産党の一味が重要なる某連隊に
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/das/jsp/ja/ContentViewM.jsp?METAID=10070587&TYPE=IMAGE_FILE&POS=1&LANG=JA
また、同年の4月14日の神戸又新日報には、軍隊の現役兵の中にこの共産党事件に関与した者がいて、軍隊内でオルグ活動をしていたことの報道が出ている。

昭和3年9月24日 中外商業新報 赤化運動の経緯(1〜6)小松緑

上の画像は同年9月25日に中外商業新報に掲載された小松緑氏の論文だが、これによるとソ連の官報『プラウダ』の5月24日の紙上に、コミンテルンの日本軍兵士に対する檄文が掲載されたという。該当部分を引用すると、
「檄文の冒頭には
 『強盗に等しき日本帝国は山東出兵を断行した。』と悪罵を放ち
 『世界のブルジョア諸国は、支那に対する内政干渉より一転して領土侵略に移った。日本はその機先を制せんとして、早くも要害の地歩を占め、山東を満洲と同じくその植民地とする野心を暴露した。』と妄断し、更に
 『陸海軍人諸君よ、諸君は陸海軍両方面より、先ず反動勢力を打破し、而して支那を革命助成する為め、その内乱戦を国際戦に転換せしむるよう不断の努力を怠る勿れ』という煽動的発言を弄し、一石以て日支両鳥を打つの狡計を運らし最後に
 『日本の反革命的強盗に打撃を加うべき共産党機関現在なれ』と結んである。」
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/das/jsp/ja/ContentViewM.jsp?METAID=10070971&TYPE=IMAGE_FILE&POS=1&LANG=JA

ここで『反動勢力』とか『反革命的強盗』と書かれているのは、日本政府あるいは日本のブルジョワを指していることは言うまでもないが、これらの勢力と戦えと関東軍兵士に檄を飛ばしていることになる。
コミンテルンがプラウダ紙面に於いて関東軍に対する檄文を掲載したのは、日本共産党の中心メンバーが3月に検挙されて彼らの連絡網が寸断されたことと関係があるのかもしれないが、このような記事がプラウダに掲載されたということは、関東軍の中にこの新聞を購読していた者が少なからずいたことを意味する。

そしてこのプラウダ記事の11日後に張作霖爆殺事件が起こっているのだが、この事件の不可解さの原因は関東軍に対するコミンテルンの工作と関係があるのではないだろうか。

昭和3年9月21日 時事新報 赤化宣伝の密謀に政府神経を尖らす

その後、コミンテルンのわが国に対する工作はさらに激しくなっている。上の画像は9月21日付の時事新報の記事だがここにはこう記されている。

「政府は過般の共産党事件以来特に露国の赤化運動を重大視しその防圧に関して種々対策を講じているが其後も第三インターナショナル*の赤化運動は隠然猛威を逞しうし聊かも緩和の色なきのみか共産党事件の取調べ進捗するに従い漸次其背後に第三インターナショナルの支援ある事実が顕著になって来た、殊に最近政府側の探知し得たるところに依れば第三インターナショナルは今秋を期し大いに赤化宣伝に努めんと陰密に計画を廻らし我国の共産党員中の有力なる注意人物も之と策応せるの事実明かなるものある…」
*第三インターナショナル:コミンテルンのこと。
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/das/jsp/ja/ContentViewM.jsp?METAID=10070801&TYPE=IMAGE_FILE&POS=1&LANG=JA


昭和3年10月19日 国民新聞 露国共産党巧みに我が軍隊に赤化宣伝

また、10月19日付の国民新聞の記事では、ソ連が在満日本軍および内地軍隊に対して強力な赤化宣伝工作を開始したことが報じられている。残念ながら宣伝文の内容は「掲載し得ざる性質のもの」として略されているが、
「ハルビン労農領事館宣伝部は具体的宣伝計画の樹立に関し種々協議を重ねた結果、労農革命完成の経験に鑑み、直接日本軍隊に宣伝を行い以て革命を勃発せしむるの方針を執るに決し、去る七月初旬以来、先ず以て在満日本軍隊に対し前後二回に亘り
 (一)善良なる無産者、親愛なる日本軍人同士に檄す(二)虐げらるる無産者、親愛なる日本軍人同士へ
と題し世界革命労働軍連盟の名を以て軍閥資本閥に反抗して階級闘争を激成し、以て一路革命の勃発に邁進せしめんとする過激なる言辞を連らねた長文の邦語宣伝文を配布
し、更に引続き第三、第四の宣伝に著手せんとするの外、一歩を進めて我国内地の軍隊全部に対しても宣伝網を拡張するの計画を定め、本月上旬既に其の宣伝員は我国に潜入したる形跡あり」と報じている。
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/das/jsp/ja/ContentViewM.jsp?METAID=10071350&TYPE=IMAGE_FILE&POS=1&LANG=JA

一般的な歴史書やマスコミの解説などでは関東軍が満州を獲得するために「暴走した」と描かれることが多いのだが、冒頭の張作霖爆殺事件に関して言うと、この事件はソ連の特務機関要員によって計画され、日本軍に疑いが向くように工作がなされて、何人かの日本人エージェントを用いて実行された可能性が高そうだ。犯行を自白したとされる関東軍の河本大佐はおそらくソ連とつながっていて、ソ連の犯罪を隠蔽するために名乗り出たものと考えられる。

だとすると、その後に起きた関東軍の「暴走」事件に関して、通説をそのまま鵜呑みにして良いのだろうか。彼らが独断行動に走り日中戦争のきっかけを作ったことは、ソ連の工作と無関係であったと言えるのか。
<つづく>

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【ご参考】
このブログでこんな記事を書いてきました。興味のある方は覗いてみてください。

「満州某重大事件」の真相を追う~~その1
http://shibayan1954.blog101.fc2.com/blog-entry-205.html

「満州某重大事件」の真相を追う~~その2
http://shibayan1954.blog101.fc2.com/blog-entry-206.html

昭和初期が驚くほど左傾化していたことと軍部の暴走とは無関係なのか
http://shibayan1954.blog101.fc2.com/blog-entry-207.html

尾崎秀実の手記を読めば、第二次世界大戦の真相が見えてくる
http://shibayan1954.blog101.fc2.com/blog-entry-280.html

わが国はいかにして第二次世界大戦に巻き込まれたのか
http://shibayan1954.blog101.fc2.com/blog-entry-447.html

スターリンの罠にかかって第二次大戦に突入したことをわが国から教えられた米国の反応
http://shibayan1954.blog101.fc2.com/blog-entry-449.html








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Author:しばやん
京都のお寺に生まれ育ち、大学の経済学部を卒業してからは普通の会社に入りました。
若いころはあまり歴史に興味を覚えなかったのですが、50歳のころに勝者が叙述する歴史が必ずしも真実ではないことに気が付き、調べているうちに日本史全般に興味が広がっていきました。

平成21年にBLOGariというブログサービスでブログを始めましたが、容量に限界がありバックアップもとれないので、しばらく新しい記事を掲載しながら、過去の主要な記事を当初の作成日にあわせて、4か月ほどかけてこちらのブログに手作業で移し替え、平成26年の1月に正式にこのブログに一本化しました。
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    同上 自由選書版

    江崎道郎氏がコミンテルンの秘密工作を追究するアメリカの研究を紹介しておられます





    落合道夫氏もスターリンの国際戦略に着目した著書を出されました

    この本で張作霖爆殺事件の河本大佐主犯説が完全に覆されました















    南京大虐殺の虚妄を暴く第一級史料。GHQ発禁本の復刻版







    GHQが発禁にした日本近代化史